Web Platform Tests での HTML 標準のテストに触れる2021年12月22日 23時50分

この記事は HTML アドベントカレンダーの 22 日目の分、兼 JavaScript アドベントカレンダーの 22 日目の分です。


Web Platform Tests をご存じでしょうか。Web ブラウザ間の相互運用性を高めるための、様々な Web 標準技術に関するテストスイートです。主要 Web ブラウザは Web Platform Tests を開発プロセスに取り込み、互換性の向上やリグレッションの防止を図っています。

Web Platform Tests はあなたが今閲覧に使っているブラウザで実行できます。試しに HTML 標準に関するテストを実行してみましょう。https://wpt.live/ からディレクトリをたどって https://wpt.live/html/syntax/parsing/ に行くと、数多くのテストファイルが並んでいます。

ファイルリストの先頭にある DOMContentLoaded-defer.html を開いてみてください。あら、テストが失敗してしまいました!

DOMContentLoaded-defer.html を開くと 1 Fail と表示されます。

気を取り直して次の Document.getElementsByTagName-foreign-01.html を開いてみると……今度は成功しています! JavaScript から document.getElementsByTagName メソッドを呼び出して SVG の要素を取得できることを確かめられました。

Document.getElementsByTagName-foreign-01.html を開くと 37 Pass と表示されます。

ブラウザによっては失敗したテストをバグトラッキングシステムで管理しています。先ほど失敗した DOMContentLoaded-defer というファイル名を Mozilla Bugzilla (Firefox のバグ管理にも使われています) で検索してみると、1242128 - Frequent Win8 TEST-UNEXPECTED-PASS | /html/syntax/parsing/DOMContentLoaded-defer.html | The end: DOMContentLoaded and defer scripts - expected FAIL が出てきました。

議論の場はそこから DOMContentLoaded-defer.html is likely wrong · Issue #4267 · web-platform-tests/wpt に移っています。どうもこれはテストのほうがおかしいのではないかという話が出ていますね。

Web Platfrom Tests は絶対的なものではなく、日々追加・変更されています。開発は GitHub で開かれており、開発への貢献は各 Web ブラウザの品質向上につながります。筆者もかつて縦書きの文書におけるスクロール位置に関するテストを追加したところ、それに関する Chrome の挙動が修正されました

あなたも Web Platform Tests に参加して Web プラットフォームを進化させていきませんか!

HTML の img 要素と image タグ2021年12月20日 23時40分

この記事は HTML アドベントカレンダーの 20 日目の分、兼 JavaScript アドベントカレンダーの 20 日目の分です。


HTML のタグといえば、要素の開始位置、終了位置、そして属性を指定する記述のことですね。開始タグは小なり記号 (<) の後に要素名が続きます。しかしながら、タグに既述した名前とは別の名前の要素が生成される場合があります。

以下の JavaScript コードを実行すると、JavaScript コンソールには (IMAGE ではなく) IMG と出力されます。タグに記述された名前は image なのに、img 要素が生成されているのです。

const div = document.createElement('div');
div.innerHTML = '<image src="" alt="">';
console.log(div.firstChild.tagName); // => "IMG"

実はこれは HTML のパース処理における例外的な扱いで、開始タグの名前が image のとき、内部的にはパースエラーとしつつ名前を img に読み替えることになっています。Web 製作者の記述ミスを救済しようとする慈悲の心の現れですね。

あくまでも HTML のパース処理における例外なので、JavaScript で document.createElement メソッドを使って要素を生成するときには適用されません。以下の例では "[object HTMLUnknownElement]" という文字列が出力されるはずです。(しかし Firefox では "[object HTMLElement]" という文字列が出力されます。)

const image = document.createElement('image');
console.log(image.toString());

参考文献

ECMAScript 仕様の連鎖生成規則2021年12月19日 23時58分

この記事は JavaScript アドベントカレンダーの 19 日目の分です。


JavaScript の言語仕様は ECMAScript として策定されています。ECMAScript の仕様書を読んでいくにあたって注意すべき点として、連鎖生成規則 (chain production) に対する挙動の記述が省略されているかもしれないということが挙げられます。筆者は当初このことに気づかず、「この生成規則に対する Runtime Semantics が定義されていないけど、どうなっているんだろう?」と悩みました。

連鎖生成規則とは、finally 節に対する生成規則

Finally :
finally Block

のように、生成規則の右辺に非終端記号がひとつだけ存在するものです。終端記号はいくつあっても (ひとつもなくても) 構いません。この場合、Finally 生成規則に対する Runtime Semantics は、その右辺に存在する非終端記号 Block に対する Runtime Semantics がそのまま呼び出されるというものになります。

HTML のフォーム送信データを書き換える2021年12月18日 22時28分

この記事は HTML アドベントカレンダーの 18 日目の分、兼 JavaScript アドベントカレンダーの 18 日目の分です。


HTML のフォーム送信処理が実行されるときに、JavaScript を使って送信データを書き換えるにはどうしたらよいでしょうか。まず思いつくのが submit イベント発生時にフォームコントロール要素の入力値 (value プロパティの値など) を書き換えることでしょう。別の手段として formdata イベントがあります。formdata イベントを利用すれば、フォームコントロール要素に手を加えずに送信データを書き換えることができます。

formdata イベントに紐づく FormDataEvent オブジェクトformData プロパティを持ち、その値はまさに今送信されようとしているデータを表した FormData オブジェクトとなっています。この FormData オブジェクトに対して appendsetdelete メソッドを呼び出すことで、送信されるデータを変更することができるのです。

以下の例では、フォームを送信する際に time というキーに対して現在日時を表す文字列が設定され、/search?q=keyword&time=2021-12-18T12%3A00%3A00.000Z といった URL に移動します。

<form action="/search"
      onformdata="event.formData.append('time', new Date().toISOString());">
  <p>
    <input type="search" name="q" aria-label="検索する語">
    <button type="submit">検索する</button>
  </p>
</form>

formdata イベントは、form 要素オブジェクトを引数にして FormData コンストラクタを呼び出したとき (new FormData(form)) にも (引数として渡された form 要素上で) 発生します。

HTML のフォーム送信に使われたボタンを判別する2021年12月16日 23時00分

この記事は HTML アドベントカレンダーの 16 日目の分、兼 JavaScript アドベントカレンダーの 16 日目の分です。


HTML のフォームには複数の送信ボタンを設置できます。ある送信ボタンを実行してフォームを送信すると、その送信ボタンの name 属性と (送信ボタンが button 要素なら) value 属性の値も送信データに含まれます。

どの送信ボタンを実行してフォームを送信したのか、JavaScript からは submit イベントに紐づく SubmitEvent オブジェクトsubmitter プロパティで判別できます。以下の例では、「公開する」または「削除する」ボタンを実行すると、JavaScript コンソールにそのボタンが出力されます。

<form
    method="post"
    action="/edit"
    onsubmit="console.log(event.submitter); return false;">
  <p>
    <button type="submit" name="publish" value="1">公開する</button>
    <button type="submit" name="delete" value="1">削除する</button>
  </p>
</form>

submitter プロパティが実装される前は、各ボタンの click イベントを基に、どのボタンが最後に実行されたのか記憶しておく必要がありました。そこからするとずいぶん楽になりましたね。